【肥やしの基本】リン酸(P)のお話
肥やしの基本は言うまでもなくN・P・K。
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作物の生育や収量に最も大きく影響するのはN(窒素)なので、施肥に関する議論でもだいたいは窒素含量や窒素施肥量が話題になることが多いと思います。
ですが、あえて今回はP(リン酸)のことを書こうと思います。
特に理由はなく、たまたま関係することを調べる機会があったからです。
*リン酸ってどんなもの?
リン酸は植物の根の発育、分枝の発生、葉数の増加、開花、結実を促進する働きがあります。
特にうしろ2つの役割から、実肥と呼ばれたりしますね。
その特徴のひとつとして、N(窒素)やK(カリウム)に比べて施肥量に対する植物体への吸収率がとても低いことが挙げられます。
まずその理由について書きます。
*リン酸は土壌に吸着されやすい
吸着されたリン酸は溶けにくい状態に変わり、このことを土壌固定といいます。
リン酸肥料を施用しても多くが土壌に固定されてしまうため、植物体への吸収率が低くなってしまうのです。
リン酸の固定には
- 金属との結合によるもの
- 微生物によるもの
- 陰イオン置換によるもの
の3タイプがありますが、最も大きな要因となっているのは金属結合です。
施用されたリン酸は、土壌中の鉄やアルミニウムと化学反応によって難溶性の化合物に変わってしまいます。
この反応は酸性土壌ほど起こりやすくなります。
これは酸性で土壌中のアルミニウム等がイオン化(Al3+)してくるためです。
つまり、pHが低いほどリン酸肥料の施用効果は低くなるということが言えます。
ただし、アルミニウム(Al3+)はそのものが植物の根の伸長を阻害することから、リン酸を施用し結合させることでその害を抑えているというふうに考えることもできます。
一方、この固定されたリン酸は一生使いものにならないわけではなくて、還元状態におかれる(湛水状態とか)ことで再び易溶性となり、吸収利用が可能となります。
この固定を回避し、作物の利用率をあげるには
- 石灰を同時に施用する(pHを6.0~にあげることでアルミニウム等がイオン化しにくくなる)
- 堆肥と混ぜたり、包み込んだりして施用する(土壌との接触をなくすことで物理的に結合を遮断する)
などの対策が考えられます。
*溶けやすさによる分類
他にもよく問題になるのはその肥効の現れかたです。
リン酸はその効き方によって
- 水溶性
- 可溶性
- く溶性
- 不溶性
の4つに区分されます。
それぞれの性質をちゃんと理解しておかないと、目的にあった肥効が期待できない恐れがあります。
単純に溶けやすさで並べると
水溶性 >> 可溶性 >> く溶性 >> 不溶性
となります。
水溶性はその名のとおり水に溶ける性質のことです。
潅水や降雨で簡単に溶け出します。
すなわち即効性があり、生育初期への貢献が期待できるということですね。
ただし、水溶性リン酸は上記のように土壌中の金属と結びついて不溶化しやすく、簡単に植物体が利用できないかたちになってしまいます。
過リン酸石灰(過石)に多く含まれます。
可溶性とは、定義上はクエン酸アンモニウム液に可溶な性質のこと(らしい)です。
実際の土壌中では、植物の根から分泌される有機酸(根酸)によって溶け出します。
水には溶けないものの、わりかし早く肥効があらわれます。
く溶性とは、2%クエン酸溶液(クエン酸またはクエン酸塩の水溶液:pH2.1程度)に溶ける性質をいいます。
く溶性って「くえん酸に溶ける性質」を略したものなんですね。
根酸程度の酸(根酸は1%クエン酸溶液程度の酸度に相当)ではまだ溶け出さず、徐々に溶け出すためにゆっくりと肥効があらわれます。
(肥料取締法ではクエン酸ではなく「くえん酸」の標記なので平仮名なのだそうです)
熔成燐肥(ようりん)に多く含まれます。
不溶性とは、もはや酸でも溶けないもので、微生物による分解ではじめて吸収可能になるものです。
溶けないから全く効果がないわけではなく、微生物の働きによって後々効いてきます。
*まとめ
途中かなり話が脱線しました。
結局のところ、一番大事なのはリン酸は実肥だってことです。
実をつける、つまり果菜(トマトとかカボチャとか)の栽培には欠かせない成分だということです。
もちろん葉菜や根菜には必要ないわけではありませんし、リン酸無施肥でも果菜栽培は可能でしょう。
ただ、とりわけ果菜においてリン酸の過不足は収量の増減に大きく影響するということです。
果菜にはリン酸。
とりあえず今日言いたかったことはこれ。マル。